拠点空港

日本でLCCを発展させていくには何が必要なのか

これまでの日本の航空市場は、最大需要地である首都圏空港の容量が不足しており、LCCブランドの浸透の最大の制約となっていた。しかしながら、今後は2012年以降の羽田・成田空港の容量拡大に伴うLCCへの配分余力の発生や、世界的な規制緩和(オープンスカイ政策)の進展と国内・国際を問わない空港間競争による誘致競争の激化、アジアパシフィック地域での中・長距離LCCビジネスモデルの定着などからLCCブランド浸透の基本条件は整い始めていると考えられる。

それ故、①今後の羽田・成田空港の容量拡大に伴うLCC枠の確保すること、②世界的なオープンスカイ政策の進展と国内際を問わない空港間競争の激化による誘致合戦に勝つこと、③アジアパシフィック地域における経済成長の進展と中・長距離LCCビジネスモデルを定着させること、さらに④消費者の行動パターンや嗜好の変化によるLCC利用の活発化などの要素が必要条件となってくると考えられる。

日本にLCCが浸透した場合、既存大手航空会社の経営悪化が心配されると思われがちだが諸外国の事例や日本の新規参入の例を見る限り、そのような心配はない。もちろんLCCの低運賃がマーケット指標になってしまえば類似路線の交通が提供する最低運賃の価格帯がそこまで下がることが予想される。しかしその影響は既存大手航空会社のみに留まらず、高速バスや新幹線といった他交通機関の運賃低下を促すことにつながるため、様々な交通機関を利用する顧客にとっては喜ばしい状況になると考えられる。つまり国内でのLCCが発達すれば、あらゆる交通機関の価格競争が始まることが期待され、観光やレジャーなどの個人消費が刺激され国内の景気回復に大きく貢献できるのではないだろうか。

日本の拠点空港は羽田?

日本の拠点空港候補4空港は、いずれも国際線と国内線が共に運航されている。

しかし、拠点空港になるためには、その空港に国際線と国内線の多くの路線が集まることが必要とされている。まずは、国内線について分析する。4空港のうち国内線の路線数が豊富なのは、羽田空港である。2011年度の国内航空旅客数合計7905万人のうち、羽田便利用者は5258万人で、国内旅客の約7割を羽田利用者で占めている。また、2012年度路線別輸送実績の上位20路線のうち、15の路線が羽田を結ぶ路線であった。路線数においても、羽田は国内45の空港と結ばれていて、成田は国内16、関空は国内12、中部は国内18の空港と結ばれていることを比べると、羽田の国内線の路線数は圧倒的に多いといえる。

しかし、成田、関空ではLCCの就航が増加し、LCC専用ターミナルが関空には2012年秋に完成し、成田にも2014年度に完成される予定で、LCCの国内線の需要の増加が期待される。一方、国際線に限っていえば、成田空港の輸送実績が他の3空港と比べて高い。しかし、成田は1本しかない4000m級の滑走路、24時間運用ができないといった問題から、発着枠に余裕がない。その弱点を補う形で開港された関空や中部も高い着陸料により、便数の減少が続いている。ところが、羽田は2010年のD滑走路と新国際線ターミナル完成以降、国際線の便数は増加傾向にあり、2014年3月末から国際線ターミナルが拡張されると同時に、日系航空会社の羽田発着の国際線は1日当たり26路線から42路線に拡大する予定である。また、羽田の国際線旅客数も順調に増加し、2014年3月期には802万人と成田の4分の1の水準に達する見込みである。

日本の拠点空港候補4空港の中で、アジアの拠点空港として機能できる日本の国際空港は羽田空港だ、というのが個人的な見解である。しかし、羽田空港が日本の拠点空港として機能するための課題がある。発着枠の拡大に向けた設備面の拡充や飛行ルートの見直しだ。国土交通省は発着枠の拡大に向けて、需要の減った国内線の発着枠の一部を国際線用に振り替えたり、5本目の滑走路や新たなターミナルビルをつくったりする案が出ているが、設備面での拡充では財源の工面が課題である。投資額が膨らむと、着陸料に跳ね返り、空港の競争力を逆に損なうことに留意する必要があるからだ。飛行ルートの見直しについては、東京上空の飛行を解禁する案も議論する可能性があるが、新たな騒音問題の浮上も考えられ、近隣自治体などとの合意形成が不可欠になる。設備面や財源面などの課題の克服によって、羽田の発着枠が拡大され、乗客が利用しやすい設備が整い、都心とのアクセスも整備されれば、羽田空港がアジアの拠点空港として機能し、日本の空の玄関口としても機能できると考えられる。

日本の拠点空港候補

日本の空港は空港法により、大きく分けて、拠点空港、地方管理空港、その他の空港、共用空港の4つに分類できる。

拠点空港は、①会社が設置及び管理する会社管理空港(成田・中部・関空・大阪(伊丹))、②国が設置及び管理する国管理空港(東京(羽田)、新千歳(札幌)、福岡、那覇など)、③国が設置し、地方公共団体が管理する特定地方管理空港(旭川、帯広、秋田、山形、山口宇部)、の3つを掲げる空港である。地方管理空港は地方公共団体が設置及び管理する空港である。その他の空港は拠点空港、地方管理空港及び公共用ヘリポートを除く空港である。共用空港は自衛隊が設置及び管理する飛行場である。日本の国際空港がアジアの拠点空港として機能するには、空港法第4条第1項に掲げる成田・東京(羽田)・中部・関空・大阪(伊丹)の5空港が候補に挙げられる。これらの空港は年間の利用客数が1,000万人以上で、拠点空港として十分な数である。

しかし、国内線しか運航されていない大阪(伊丹)は拠点空港候補から除外されると考えられる。理由としては、世界の空港には国際線と国内線で棲み分けされた空港がほとんどないからである。それは国際線が主流の関空と国内線運航のみの大阪(伊丹)との間は離れていて、その2空港を結ぶアクセスも悪く(バスで75分)、関空と大阪(伊丹)で国際線と国内線の乗り継ぎにはとても不便であり、1つの空港で国際線と国内線の乗り継ぎが便利であることが必要なためである。

上記4空港のうち、国が管理しているのは東京国際空港(羽田)のみである。2000年9月から航空局において開催された「首都圏第3空港調査検討会」で検討された結果、既存ストックの有効活用、旅客の利便性等の観点から、首都圏第3の空港を新設するより大きな優位性があるため、羽田空港の再拡張案を優先して推進することとされた。一方、都心からのアクセスで不便が生じる成田空港では、2010年に京成電鉄の成田空港新線が開業し、新線経由となる「スカイライナー」が新幹線以外で最速となる時速160kmで走行、都心~空港間を30分台で運転できるようになった。しかし、香港のエアポート・エクスプレスは香港島の中心と空港の間を12分間隔、所要23分で結ぶことなどを考えると、成田空港が現在でもアジアでは最も時間的に市内から遠い空港となっている。日本で完全24時間空港の条件を満たしているのは、関西国際空港のみである。完全24時間空港は、4000m級の滑走路を複数所有する空港のことで、一方の滑走路を深夜のメンテナンス等で閉鎖されても、他方の滑走路を運用できることから、24時間完全に運用できる空港を意味する。しかし、関西国際空港はその設備に見合った需要を得ていないのが現状である。